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はじめのおまけ

「お前は絵本とエロ本を行ったり来たりしてる本みたいだ」

そう言われたことがある。

「ボルヘスの『砂の本』みたいな人だね」

とも。


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本とはなんだろう。アートとはなんだろう。
アーティストブックとは?アートブックとは?ブックアートとは?


夏の夜独特の熱気の立ち込める新宿の東南口の長いエレベーターを下ってちょっと左。煌々と光り続けるGAPと駅広場との間の細い道で、少年たちがスケボで繰り出す技をぼんやり見遣りながら、そして待ち合わせ場所に珍しく15分も早く着いた自分を呪いながら、あたしは何故かそんなことを考えていた。この街を行き交う人たち。そこで起きるいくつものことたち。アートってほんとはそんなものなのかもな、と、そんな感傷的なことに考えを巡らせながらも、結構真実なんていうのはこっち側に隠れているような気がしていた。

同時に、本についても考えていた。(いろんなことを同時に考えるのは昔からの癖。)街にはたくさんの文字が落ちている。表面上の意味や一般的な価値基準とは離れたところで、これらの文字はひょっとしたら誰かの壮大な記憶に内包されているのかもしれない、と想像する。実際のところは当事者にしかわからないし、同じ文字が複数人の記憶に内包されているのかもしれない。けれど、そこになんらかのストーリーが潜んでいるかもしれないという可能性。それを想うと、もう既にそれらの文字たちは、唯の風景では無くなり、誰かにとっての大事なテクストにばかり見えてくる。その場合、あたしがさっきから握り締めているこの文庫本と、この街に、どんな違いがあるというのだろう?



そんな他愛も無い、ゆらゆらとした思考が始まりではあったのだけれど。


その瞬間から、この街はアートで、この街は一冊の本に見えてきて。
この世界も宇宙もアートで本のような気がしてきた。
そしてその隅っこでそんなことを考えている自分自身も。


アート/ブック。


そんなわけで、それからあたしは本とアートにずっと囚われているのである。


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by midori_sakai | 2006-03-06 00:06 | はじめのおまけ