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Books as Art <1991> [6]

さて、今日のテーマ。


「アーティストブックにおいて、オリジナルって何?」


以下、またシンポジウムの模様から引用。

"Books as ART" Boca Raton Museum of Art
Addendum p.Ⅶ-

Marvin Sackner: ...In our own collection, as we define an artist's book, we have a classification system too, and we usually define an artist's book as something that is limited in edition size. In otherwords, to me, it is not a run of 3000, 5000, 50,000 books even though an artist may have made that book. An artist's book, for me, is an edition of 1, an edition of 3, an edition of 5 and not much more than that. So that I view it, and I'm in agreement with the other people who've said it, it's a private kind of thing where the artist can communicate in a private way with the observer.

Marvin Sackner: ・・・私たちのコレクションでは、アーティストブックは、その部数によって定義されます。言い替えると、私にとっては、3000、5000、50,000部の本は、たとえアーティスト自身の手で作られたものだったとしてもアーティストブックでは無い、ということです。アーティストブックは、私にとっては、1部だけのものや、3部、5部のもので、それ以上のものではありません。なので、この視点から見ると、他の人も仰ってましたが、アーティストブックとはとてもプライベートなもので、アーティストがそれを観るものに対して、とてもプライベートな方法でコミュニケーションを取ることができるものだという意見に賛成です。




まずシンポジウム内でこういう発言がある。
数ページにおよぶシンポジウムの記事を読んだが、私が一番ひっかかったのはやはりこの発言だった。でもきっとみんなそうなんだね。質疑応答で観客から真っ先に質問されたのは、やはり「部数でアーティストブックを定義するのか?」ということだった。(何故か回答はMarvin Sacknerではなく、Charles H. Hine Ⅲがしていて、なんとなく納得いかないのだが。)

というわけで、以下質疑応答の模様。



Audience: ...It was mentioned that some of the books are in limited editions of 1,3,6 and so forth. When I first saw this exhibition announced, BOOKS AS ART, somehow it conjured up in my mind the type of books my wife and I collect which are livre d'artiste or beau livre. We usually think of those as perhaps Matisse's JAZZ, or Leger's Le Cirwur, Picasso's Carmen, or whatever. They are not limited to that small a number but are in editions of 100 and up to 250. Was this prticular exhibit aimed at that type of book or exactly what?

Charles H. Hine Ⅲ: This is a question I want to respond to because I think it is, for me, a really interesting question. We make precisely this genre and I find that people are more hasty to define what we do as different from other things than I am. Everything is a limited edition. Chrysler builds cars and advertises them as a limited edition. Really the difference in a world population of 5 billion between a book that is 7 copies and the book that is 7000 is minscule. One thousandth of the population will ever come in contact with it in any case. What are you left with? You are left with defining the qualities of the book. Whether it was done in an edition of 7 or 700 is not that critical.

Audience: You do limit yours though?

Charles H. Hine Ⅲ: Yes. The approriateness of limiting them has to do with the scarcity of materials and the technical processes. Books started fluorescing in their editions because offset lithography could produce the same quality impression at the 10 thousandth impression as it did at the first. Whereas the hand lithograph, livre d'artiste of the late 19th Century stopped at 250, plus squeezing out those 30 extra hors commerces, which was simply because that was what the stone could produce with fidelity.

Audience: But they are considered originals?

Charles H. Hine Ⅲ: Oh yes.

Audience: Each JAZZ is considered an original though there mayhabe been 250 of them?

Charles H. Hine Ⅲ: Absolutely.

Audience: Whereas in a larger edition they wouldn't be? Or offset lithography or some other form of producing large editions wouldn't also be?


Charles H. Hine Ⅲ: I'm inviting you to think of each thing as original, considering that all editions are limited, and just to look at the quality of production.



客:・・・1部、3部、6部など、部数が限られているものがそう(アーティストブック)だと言うことが先ほど言われていました。私が最初にBOOKS AS ARTという展覧会が行われるというのを知った時、なんとなく私と妻が集めているような、リーブル・ダルティストやボー・リーブルの展覧会だと理解していました。通常思い浮かべるのは、例えばマティスのJAZZや、レジェのLe Cirwurや、ピカソのCarmenみたいなものですね。こういったものは、小部数に限られていませんが、100部から250部程度しか作られていないものです。この展覧会は、こういったタイプの本に照準を合わせようとしたものだったのですか?そうでなければ、どういうものを狙ったたものだったのですか?

Charles H. Hine Ⅲ:これは私にとってとても興味深い質問なので、私がお答えしたいと思います。私たちは正にこういったジャンルのものを作っており、私たちのつくるものが他のものに比べてどう違うかの定義を、人々は私よりも性急に行おうとしているように感じます。全てのものは限定数で作られていると言えます。クライスラーは車を製造し、それらを限定数と言って宣伝します。実際、世界には50億もの人がいるのだから、7部の本と7000部の本の違いなど本当に非常に小さななものです。どんなことがあっても、全人口の1000分の1の人だって、その本と接することはないのです。じゃあどうすればいいのか?そうなったら、本の質で定義づけを行うしかありません。それが7部が700部かということは、それほど重要なことではないのです。

客:しかし、あなたは自分のコレクションには制限を設けるのですよね?

Charles H. Hine Ⅲ:そうですね。制限を設けることの妥当性は、物の希少性とテクニカル・プロセスの問題と関係しています。オフセット印刷が全く同じ結果を1回目と10,000回目とに出せることから、本はまとまとまった部数で作れるようになりました。一方で、手製のリトグラフの場合、19世紀末のリーブル・ダルティストは250部と、あとなんとか非売品分として余分に30部製作し、それ以上はつくりませんでした。これは単純に、これが忠実に同じものをつくる場合の、石の限界だったからです。

客:けれどそれらは全てがオリジナルと考えられているのですよね?

Charles H. Hine Ⅲ:それはそうです。

客:JAZZの1部1部は、それがたとえ250部つくられたとしても、それぞれがオリジナルとして考えられているということですか?

Charles H. Hine Ⅲ:もちろん。

客:なのに一方、それより多い部数だと、1部1部はオリジナルだとは言えなくなるということですか?オフセット印刷や、その他の製作方法での大部数発行もやはり1部1部はオリジナルだとは言えないということですか?

Charles H. Hine Ⅲ:それについては、全ての部数がどちらにしろ限られている、という考え方に基づいて、全てオリジナルだというように考えたらどうでしょうか、と言いたいです。とにかく、そのものの質だけに注目すればいいのだと思います。




このブログ内で行われている私の翻訳は、通常仕事で受けるときほどの正確さは追求しないことにしているし、誤訳もあるかもしれない。けれど、この質疑応答の迷走ぶりは私のせいでは無い、と思う。


「人口50億にしてみれば、7部も7,000部も一緒だ!部数なんて関係ない!中身がアートならそれはアーティストブックなのだ!」と言いつつも、自分のコレクションに関しては部数を気にしているという。

ちなみにこの後は違うお客さんとの質疑応答に移ってしまうのでこの話はここで終わってしまうのだが、このお客さんは納得していないだろうなー、と思う。

(余談ですが、シンポジウムなどの質疑応答って、質問に対して答えがかみ合っていないことがあまりに多いように思う。その他大勢の観客として聞いていると、質問者もパネラーも、そしてどこでこのぐだぐだな議論を切って次の議論にうつるか考えあぐねている司会者も、みんなかわいそうになってきてしまう)



さて、本題に戻る。
アーティストブックにおいて「オリジナル」とはなんだろう。
逆に、「オリジナル」という概念が成立しない場合、それは「アーティストブック」とは呼べないのだろうか?


たとえば。

アーティストが自分の手で絵なり言葉を書き、自分の手で製本した、世界で1部しかないものはアーティストブックだし、それはオリジナルだ。

これは多分皆異論は無いはず。


では、以下の場合はどうだろう。

①アーティストが手書きで内容を描き/書き、自分で製本をしたものを、50,000部製作した場合。

②アーティストが手書きで内容を描き/書き、製本を業者に頼み、1,000部製作した場合。

③アーティストの絵/言葉を自宅のインクジェットプリンターで印刷し、自分で製本したものを300部製作した場合。

④アーティストの絵/言葉を印刷会社にデータで入稿し印刷してもらい、製本も業者に頼み、100,000部製作した場合。

⑤アーティストの絵/言葉を印刷会社にデータで入稿し印刷してもらい、製本は自分で行い、50部製作した場合。



など。他にも組み合わせはいろいろあるはず。


内容が手書き/自宅で印刷/業者が印刷
手製で製本/業者が製本
部数が1/50/300/1,000/10,000/100,000

これらの順列組み合わせ。他にも想定できる条件があるかもしれない。


結論から言うと、私はどういった条件であれ、
アーティストがオリジナルな思想を持って、なんらかのこだわりを持ち、自らが「本」だと主張するものを作ったのならば、それはアーティストブックだと考えているし、その一部一部はオリジナルとして扱っていいのではないか、と考えている。


もちろん、同じ作家の1部しかないアーティストブックと10,000部あるアーティストブックでは、1部しか無いものの方が貴重であり、内容の質が仮に同程度であれば、無論その1部の方がオークションでは高値がつく、というこもわかる。しかし、だからといって10,000部あるアーティストブックに価値が無かったり、ましてや「アーティストブックでは無い」という風には言えないと思う。


けれどどうなんだろう。これについてはまだまだ考えなければ、と思っている。


一般的にどう考えられているのか、職業的立場によってこのことに関する考え方がどう変わってくるのかはとても興味深いし、そういった意見をいろいろ知ることによって、私の考えも変わっていくのかもしれない。



長くなりましたが、とりあえず。このへんで。
by midori_sakai | 2006-03-15 01:52 | 全般的なこと
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